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【TCG開発記】#001 『妖精の森』の設計思想①

執筆者の写真: ユルング
ユルング
7月26日
読了時間: 13分

更新日:8月8日


こんにちは。局長のユルングです。


今回から【TCG開発記】と称して、『妖精の森』の開発の様子や裏話を紹介していきます。


トレーディングカードゲーム(以下 TCG)がどのように生み出されているのか、その一例を理解する手助けとなれれば幸いです。


記念すべき第一回は、『妖精の森』の設計思想について。

私が開発で重視している5つの要素を、連載形式でお話しします。


※本TCGのアートワークにはAI画像生成(DALL-EまたはChatGPT Images)を使用しています。苦手な方は閲覧をお控えください。



はじめに



TCGに限らず、何かを制作する際には「どんなものを生み出したいか」という方針の決定が最優先事項です。


方針を決めないまま制作を進めれば、たとえ魅力的なアイデアがあったとしても、全体としてまとまりのないものになりかねません。


個々のパーツは良いのに統一感のない家のようなもの。
個々のパーツは良いのに統一感のない家のようなもの。

そこで私は、これまで数多くプレイしてきたTCGの中で、自分が「面白い」と感じた要素を羅列していくことにしました。

そこに自分自身が創るべきゲームの方針が隠されていると思ったからです。


TCGと一括りにしても、その中には色々なテーマを持ったゲームが存在し、それらを構成する要素は膨大です。

世界観やゲームのルール、カードのデザイン、用語などなど、要素単体のみを考えて繋げるのでは統一感のないゲームができてしまう恐れがあります。


よって、私はゲームをプレイすることで得られる「体験」に焦点を当て、ゲーム制作における大指針として5つの要素を抽出しました。


  1. ゲームの世界に入り込める。

  2. 一方的に終わらず、最後まで駆け引きが続く。

  3. ゲーム後半に向かうほど、試合が大きく盛り上がる。

  4. 自分で考えたデッキで勝利を目指せる。

  5. TCG未経験者でも、最初の一戦から楽しめる。


これらはどれも重要な要素ですが、全てを完璧な状態でゲームに落とし込むのは困難です。

駆け引きを増やせば、初心者には複雑になりやすい。構築の自由度を高めれば、それだけ駆け引きを起こすバランス調整も難しくなる。

このように、理想同士が衝突することもあります。


それでも、アイデアを重ね、時には先人の知恵を借りながら、5つの理想を可能な限り両立させる方法を探りました。


以降は連載形式で5つの要素を取り上げ、『妖精の森』をどのように組み立てていったのか、その過程をお話しします。

※本記事では要素①のみの紹介です。


要素① ゲームの世界に入り込める


ゲームをプレイしている間、その世界に入り込み、友人たちとそこで遊んでいるように感じられる。

これは私にとって「面白い」ゲーム体験の一つです。


TCGの祖、マジック:ザ・ギャザリングでは、プレイヤーはプレインズウォーカーと呼ばれる魔法使いとなり、多次元で蒐集した魔法を唱え合うことでゲームの勝利を目指します。

MTGホームページ:https://mtg-jp.com/world/


マジック:ザ・ギャザリングには「カラーパイ」という概念が存在し、基本の色である白、青、黒、赤、緑には、それぞれ異なる価値観や目的があります。そして、その思想がカードの雰囲気だけでなく、使える能力や戦い方にも反映されています。


例えば、緑の自然や成長を重視する思想は、魔法を唱えるためのリソースであるマナの増加や、膨大なマナを使って召喚された大型クリーチャーによる圧倒といったメカニズムと結びついています。特定の色を使うことで、自然とその色の思想、ひいてはその色のキャラクターが取り得る行動を再現できるわけです。


このように世界観とルール(ゲームデザイン)がマッチしていると、強い没入感を生み出すことができます。


では、そのようなゲームを作るにはどうしたら良いのか?

私は深く考えましたが、思いついた方法は2つしかありませんでした。


世界観を元にルールを作るか、ルールを元に世界観を作るかです。


とてもシンプルですね。

私はこの2つのうちの前者、世界観を元にルールを作ることを選びました。

ハイファンタジーの世界で魔法を撃ちあって戦う、ちょうどマジック・ザ・ギャザリングのような世界観のゲームを作りたいと思っていたからです。


実際の世界観の構築については別の記事で話すことにして、しばらくの熟考の後に『妖精の森』という世界が生まれました。

妖精王が創った楽園『妖精の森』で、王の子である妖精王子たちが次代の王位を賭けて戦うという設定。まさに王道ファンタジーです。


土属性魔法「ストーン・コントロール」のイラスト。幻想的で魔法的な雰囲気が漂うのが『妖精の森』の世界。
土属性魔法「ストーン・コントロール」のイラスト。幻想的で魔法的な雰囲気が漂うのが『妖精の森』の世界。

水の妖精王子。プレイヤーは彼らに自己を投影してゲームを楽しむ。
水の妖精王子。プレイヤーは彼らに自己を投影してゲームを楽しむ。

これで世界観はできました。

先述の「魔法での戦闘」を表現したいという望みを叶えるのにぴったりのフィールドです。

ここからは「魔法での戦闘」をルールにどう落とし込むかを考えていきます。


ここで重要なのは、単に魔法らしい名前のカードを用意することではありません。

プレイヤーがゲーム中に行う判断そのものを、魔法使いが戦闘中に行う判断へ近づけることです。

それができれば、プレイヤー自身が妖精王子として戦っている感覚を生み出せるはずです。


魔法での戦闘とは?


魔法での戦闘。現実には例が存在しませんから、想像や他作品のイメージで補う必要があります。

私が思い描いたのは、ドラゴンボールのような空中戦です。

魔法じゃないじゃん!と言われそうですが、中遠距離に存在する敵にエネルギーをぶつけて戦うという点では共通しています(ドラゴンボールは格闘もしますが......)。


重要なのは、

①攻撃→防御というやり取りがある

②攻撃に割くリソースと防御に割くリソースを考えながら戦う

という2点。


ドラゴンボールで言うと、細かな気弾による攻撃中は敵の攻撃を防御できますが、大技を透かされると反撃を喰らってしまう......というような感じです。


このような空中戦の基礎を『妖精の森』にも採用しようと考えました。

ここからは重要な項目として挙げられた2点について決定し、ゲームの大枠を作ります。


戦闘における「攻撃→防御」をルール化する


まずは、私がイメージする魔法戦の基礎である「攻撃」と、それに対する「防御」の応酬です。

これをルール化するには、攻撃と防御それぞれの役割を持ったカードと、それを使用するための仕組みが必要になります。


まずは攻撃を行うための「魔法」。それに魔法を使うための「魔力」と、相手から受ける攻撃を防御するための「ガード」。そして敵の攻撃を見てから防御するか判断する「リアクションタイミング」。この4つの要素は自然と決定しました。


ルールのベースとなる要素が決まったら、まずは思考実験的に、最も基本的な効果を有するカードを作ってみるのが良いでしょう。

今回の要素で言えば、以下の2枚を作るということです。


火属性の魔法「熾火」。魔力を1点だけ消費して3点のダメージを与える、最も基本的な攻撃魔法。
火属性の魔法「熾火」。魔力を1点だけ消費して3点のダメージを与える、最も基本的な攻撃魔法。
リアクションタイミングにのみ発動可能な防御魔法。発動すると2点のガードを得ることができる。
リアクションタイミングにのみ発動可能な防御魔法。発動すると2点のガードを得ることができる。

熾火は隙の少ない攻撃魔法。プレーン・シールドは1枚で完結している防御魔法のイメージです。

カードが出来たら、暫定的なルール通りに処理を行ってみましょう。それが思い描いた世界観の通りに動いていれば最高です。


あなたは攻撃魔法である「熾火」を発動。リアクションタイミングが発生し、相手が「プレーン・シールド」を展開してきました。ガードは2点です。

この場合は以下のように処理されます。


攻撃時の挙動。防御側がガードを得ていると、ダメージを減らすことができる。
攻撃時の挙動。防御側がガードを得ていると、ダメージを減らすことができる。

では、上記の処理を世界観に沿って想像してみましょう。


あなたは火炎魔法を操る、火の妖精王子。対するは水の妖精王子です。

今はこちらがイニシアチブを握っています。強力な魔法で一気に体力を削りたいところですが、力を使いすぎれば反撃に耐えられません。

――ここは、隙の少ない「熾火」で攻めよう。

魔力を練り、火炎を生み出す。その挙動を察知した相手は、すぐさま「プレーン・シールド」を展開。直後、放たれた炎が防壁へ激突します。

防壁は威力の大半を受け止めましたが、完全には防ぎ切れません。炎がガードを貫き、わずかながら確実に相手の体力を奪います。


と、こんな感じでしょうか。シンプルながら攻撃→防御の流れはイメージ通りです。

これから発動する魔法を見てからリアクションタイミングで対処可能なところが、敵の攻撃挙動を察知してから適切に対処する熟練の魔法使い感が出ていていいんじゃないでしょうか。


ただ、このままではMTGや遊戯王なんかの「相手ターンに使えるカードがある」系のカードゲームと差別化できていません。カードのイラストや根幹のルールが異なるだけで、実際の挙動とゲームに与えている作用は同等です。

より深く魔法での戦闘の再現度を上げる必要があります。


何より、最初にイメージした、

「攻撃に割くリソースと防御に割くリソースを考えながら戦う」

という思考の部分が、まだ十分に再現できていません。

より深く「魔法で戦っている」という感覚を作るためには、魔法らしい見た目や名称を用意するだけでは足りず、プレイヤーがゲーム中に行う判断そのものを、妖精王子が戦闘中に行う判断へ近づける必要があります。


そこで次は、戦闘における「思考」をルール化することにしました。


戦闘における「思考」をルール化する


戦闘における思考。これをルールへ落とし込むには、まず「戦闘中、人は何を考えているのか」を感覚として理解する必要があります。

私には戦闘(格闘)の経験はありませんが、近しいものとしてスポーツの経験があります。ちゃんとやっていたのはバスケだけですが。


バスケにおける戦闘とは、やはりボールを保持した状態での一対一でしょう。ドリブルで切り込みゴールを目指すか、味方にパスを出して組み立てるか、はたまたシュートを打ってしまうか......。数ある選択肢から取捨選択してゴールを奪う必要があります。全部を同時にはできませんから。


戦闘においても、自分の発想できる選択肢の中から、リスクリターンを考慮して選択するというプロセスは共通しているでしょう。戦闘における「思考」とはそこだと考えました。


これをカードゲームで再現するなら、もちろんデッキと手札にフォーカスすることになります。そもそもデッキに入っていないカードはゲーム内で使えませんし、ターンに限定すれば手札に来ていないカードは使えません。発想できる中から最善を選ぶ、ということ自体は、カードゲームの持つ根本的な性質がカバーしてくれています。


ではゲーム制作者が決めるべきは、プレイヤーが選ぶ「選択肢」をどう設計するか、ということになってくるでしょうか。ひとえに選択肢を作るといっても、根本的な「選択肢の内容」に始まり、「選択肢の増やし方」「選択肢が増えるタイミング」「選択肢の範囲」など様々なことを決める必要があります。


深く考えればもっと決めるべき内容があるかもしれませんが、ここは勢いも大事ということで。御託に時間をかけてもつまらないですから、今あげた内容について早速決めていきましょう。

カードゲームにおける選択肢とは手札と同義ですから、ここからは手札=選択肢とします。

墓地=手札=選択肢も成り立つのでは?と思った遊戯王プレイヤーの方々は、あちらのマスターデュエル村にお帰り下さい。

※山札の枚数については、他の要素と多分に絡んでくる部分のため、別の記事で言及します。


選択肢の増やし方

まずは「選択肢の増やし方」。

手札は、毎ターン最大まで補充することにしました。リスクリターンを考慮するには選択肢が必須ですし、体勢を立て直して動きの幅が広がるというのも戦闘っぽくて良い。あと、なんといってもドローは快感です。せっかくカードゲームなんですから、たくさんのカードに触れたいですよね。

一方で、毎ターン手札を補充するということは、「手札を温存すること」そのものの価値を一般的なTCGより小さくすることにもなります。それでも、「毎ターン十分な選択肢から判断できること」を優先することにしました。

ここは制作側の頑張りどころと捉えて、目を瞑ります。


選択肢が増えるタイミング

次は「選択肢が増えるタイミング」。

手札を補充するのは、自分のターン開始時としました。

一般的なカードゲームでも、自分のターンになったらカードを引くという仕組みは珍しくありません。

適当に決めたように見えるかもしれませんが、他のゲームと共通しているということは、初めて遊ぶ人にとっての理解しやすさに直結します。

独自性が必要な部分と、わざわざ独自にする必要がない部分は分けて考えるべきでしょう。

※Flesh and Bloodという妖精の森とシステム面で共通点の多いゲームでは、自分ターンの終わりに手札を増やすルールになっています。この辺りの調整については別の記事で


選択肢の範囲

次は「選択肢の範囲」。

基本の手札枚数は5枚に決めました。

一般的なカードゲームの手札枚数は5枚なイメージがあってとっつきやすいですし、初心者でも選択肢が多すぎなくていい塩梅です。


選択肢の内容

そして最後。

最も重要なのが「選択肢の内容」です。

ここで、『妖精の森』のルールの肝となる仕組みを入れます。

魔力とガードは手札を捨てることで得られる。

というルールです。


カード1枚に3つの役割を持たせた。どれを選ぶかによって力量の差が生じる。
カード1枚に3つの役割を持たせた。どれを選ぶかによって力量の差が生じる。

手札を捨てて魔力を得ることで強力な魔法を使用できますが、翻って相手ターンの防御は手薄になり、痛い反撃をもらうリスクが高まります。

つまり、どこまで攻めて、どこから守るか。

その判断を、同じ手札の中で行うことになります。

強いカードだから使う。弱いカードだから捨てる。

というだけではなく、相手が次に何をしてくるのかまで考えながら、同じカードの価値を毎回判断し直す必要があります。

これはまさに、最初にイメージした、

「攻撃に割くリソースと防御に割くリソースを考えながら戦う」

という魔法戦の思考そのものです。


自分の発想できる中からリスクリターンを考慮して最善を選ぶ

その「思考」の部分まで、ようやくルールへ落とし込むことができました

これで、『妖精の森』における魔法戦の大枠は完成です


おわりに


今回は、世界観を出発点として『妖精の森』のルールを組み立ててきました。

最初にあったのは、「魔法を使う者同士が戦うゲームを作りたい」という、かなり漠然としたイメージだけです。

そこから「魔法戦とは何なのか」を考え、「魔法戦における攻撃→防御の流れ」「魔法戦における思考」へと分解し、最終的に「魔法」「魔力」「ガード」「リアクションタイミング」、そして「手札を魔力やガードへ変換する」というルールへ落とし込みました。


『妖精の森』で目指したのは、単に魔法使いらしい名前のカードを並べることではありません。

攻守のバランスをどうするか。

相手の動きを見て、どう対応するのか。

プレイヤー自身が妖精王子として振る舞い、思考し、やりたい行動を実行できる。

それが、私の考える「ゲームの世界に入り込める」という状態です。


もちろん、これだけで完璧な没入感が生まれるわけではありません。

カードのイラストや演出、世界設定、フレーバーテキストなど、他にも必要な要素は無数にあります。

それでも、ゲームを遊んでいる最中の「判断」や「ルール処理中の挙動」が世界観とリンクしていることは、『妖精の森』を作るうえで大切にした部分の一つです。


そして、この仕組みにはもう一つ大きな効果があります。

攻撃のために手札を使えば、防御が薄くなる。

防御を意識しすぎれば、攻撃の機会を逃す。

現状のルールですでにプレイヤー同士の「駆け引き」が生まれ始めています。

ということで次回は、

「要素②:一方的に終わらず、最後まで駆け引きが続く」

について。

ゲームバランスの調整をどうするか?

永久の難題に対して私がどうアプローチしたか、その方法をお話しします。


長い記事をここまで読んでいただきありがとうございます。

また次回もお会いできることを楽しみにしています。


「妖精の森」管理局 局長

ユルング









 
 
 

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